楽曲
Cyber尺八の最初の作品は、まだシステム本体が影も形もない段階において、プロジェクトのコンセプトおよび研究課題と、 音楽担当・志村哲の新世代楽器に向けた要望を考え合わせて企画された。志村は、この音楽制作のプロセスを<竹管の宇宙>と名付けた。 そして、1993年より始まった本プロジェクトにおいて、ヴァージョンIからVが、ほぼ毎年改定・制作され、ICMC'94デンマーク、ICMC'96香港の他、国内各所で10数回の演奏が行われた。
また、5年間の開発期間と奏法上の検討を重ねた後、Cyber尺八を広く新作のための楽器として公開することに踏み切り、作曲家・七ツ矢博資氏によって作品が作成され1999年に初演された。
竹管の宇宙IV - 電脳巣籠
志村哲、片寄晴弘、白壁弘次、金森務共同製作
竹管の宇宙IVは、Cyber尺八のハードウエアとソフトウェアの仕様を検討する初期段階において、試作機の動作確認のために制作した。特に、尺八の伝統的な演奏技法を難曲《鶴の巣籠》より抽出し、コンピュータによる認識系の技術を確立させた。作品の構想は、人の「手」と「楽器」の役割を、現代のテクノロジーであるコンピュータや電子技術によって、さらに拡張する試みであるといえる。その意味で本作品は、十数曲にもおよぶヴァリアンテが存在する尺八本曲《鶴の巣籠》の伝統的な生成原理に則って生まれてきたコンピュータ邦楽「電脳巣籠」として位置付けることができると考える。
竹管の宇宙V - 「鶴之巣籠」のテキストによせて
尺八奏者とヴァーチャル・パフォーマによる
和歌山由良の興国寺は、中国から日本への尺八伝来説ゆかりの寺として知られる。この寺に江戸中期に訪れた黄檗宗の即非禅師は、「無孔笛中蔵六律」の墨蹟を残した。本作品の音楽担当である志村はこれを参禅会の折に知り、以来、尺八修行の拠り所であると認識している。そこで、竹管の宇宙を辿りのプロセスと位置付け、電脳巣籠のさらに深い境地を模索した。本作品は、ヴァージョンIIIまでは扱わなかった音響センサによる演奏音高の認識技術とその活用方法の検討、そして新しく加わった演奏会における緊張と感動に関わる研究課題のために開発された生理センサでのデータ収集も兼ねて演奏した。
Cyber尺八とピアノのための<7つのシーン>
七ツ矢博資作曲
演奏:志村哲(Cyber尺八)、加納くみ子(ピアノ)
1999年の2月に初演された大阪芸術大学音楽学科30周年記念作品《シアターピース「竹取夢幻」~かぐや姫のコスモロジー~(松永通温/台本、共同制作)》の一部として書かれたものである。曲は、かぐや姫に結婚を申し込む3人の男達の一人「車持ちの皇子」が、日本からはるか彼方の海の上に浮かぶ蓮莱山という山の奥にある「玉の尺八」を、かぐや姫の仰せにより船に乗って取りにいくさまを「7つのシーン」としてまとめたものである。(七ツ矢博資)
独奏Cyber尺八のための《に・じ・む》
七ツ矢博資作曲
私は30年ほど前に、《ピアノのためのデザイン1》という曲を書いた。これは音の視覚化を試みた最初の作品だ。いまでもこの方法による作品は書き続けており、私の重要な作品群となっている。さて、1999年10月に制作したCyber尺八のための作品《に・じ・む》もこの作品群に連なるもので、”滲む”という視覚情報が作品を構成している。さらに次のステップとして、私はこの音楽作品を映像化したいと思っている。2、3年後になるだろうか。作品制作にあたっては、Cyber尺八奏者の志村哲さんと技術の池淵君に大変お世話になった。この場をお借りして感謝の意を表したい。(七ツ矢博資)